読書の秋! 生徒への推薦図書 その5

こんにちは、学力会の石井です。

今日から11月ですね。秋の夜長の読書便りもとりあえず今日でおしまいですが、なんだか秋も過ぎて冬に近づいてきた感じがします。

 

さて、本日紹介させていただくのは、もちろん生徒さんにもお薦めですが、石井としては保護者の方に読んでもらいたい一作です。

 

津原泰水さんの『ブラバン』です。

 

津原泰水さんと言えば、知る人ぞ知る(?)幻想小説の書き手ですが、この作品は彼としては異色のものと言われています。語り部は齢40を迎える赤字続きの居酒屋を経営しているしがない男性。ある日彼のもとに、高校時代に所属していたブラスバンド部の先輩から「自分の結婚式で演奏したいから」と、当時の部活のメンバーを再結成するのを手伝って欲しいと連絡が入ります。仕事上昼間空き時間がある彼は、二十数年ぶりに青春を共有した仲間たちと再会していきながら、当時を回想していきます。

 

消息不明の仲間もいました。後に部内で結婚した者も、帰らぬ人となった同級生もいます。結婚式でブラスバンド部が再結成するなんていう、錆び付いた夢の切れ端みたいなイベントに向かって、どこかしら退廃的な彼の生活がやおら速度を上げていきます。

 

もしこれが、単なる高校生の高校生による青春群像であったならば、並以下の作品となっていたでしょう。しかしこの作品はそうはなりませんでした。四半世紀という年月を経て再び辿られる記憶の軌跡は、時折目映く瞬きながらも、かくも甘美なのでありましょうか。現実は過酷です。様々な形で様々な困難を要求し息もつかせぬほどでしょう。しかし人は、そういった生活にひとひらの救いを見出し、寂しく微笑むのでしょう。この小説を読んだ人間が、自身の思い出にそっと寄り添うように。

 

文体の魔術師と称される津原氏の重厚な描写でもって浮かび上がるのは、誰も経験したことのない、しかし誰しもが経験する、青春のたおやかさであり、人生の黄昏時です。カンバスに滲んだ現実のうつし絵なのです。

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